恵みの中で…


by mariko0204

水屋戸棚

雨の日、何冊もたまったスクラップブックを整理していたら
14年前に、京都新聞のこまど欄に投稿して
没になった原稿が出てきた。
どこかで日の目を見せてやりたいと、
駄文ながらブログに載せることを思いつきました。


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                 水屋戸棚

    二年前にあっけなく逝った母の家を整理するため、兄妹三人とその家族が
    久しぶりに母の家に集まった。
    その家は、わたしたちがそれぞれ結婚するまでの20数年間を過ごした
    懐かしい家でもある。

    晩年をひとりで暮した母の生活が、まだそのままそこにあって
    胸が詰まった。
    ひとつひとつに思い出が染み込んでいて、処分するのが辛かった。
    頭と心は、どんどん昔へ戻っていくのに、
    黙ったままみなの手はよく動き、家の中はきれいに片付いていった。

    古い水屋戸棚と足踏ミシンを記念にもらった。
    こどものころ、とても大きく見えたそれは意外に小さくて驚いた。

    学校から帰ると、戸を開けておやつを探した。
    風邪を引くと、小引き出しから母が薬を出して煎じてくれた。

    お正月やおまつりには、大きな藍の鉢に盛られた
    お寿司や煮しめが入っていて、戸を開けるのが楽しみだった。
    
    よもぎ団子用に餡を丸めて並べてあったのを、
    下の兄とたくさん食べて、えらく怒られたことがあった。

    生活の全部がそこにあったように思う。

    今、わが家に来た戸棚はきれいに磨かれ、およそ似合わないところに
    ひっそり置かれている。
    その前を通るたびに、命の終る日まで、
    子どもたちのためだけに生きた母を想い
    いくつになっても決して超えることはできないであろう母を想い
    胸の奥が、きゅんと痛くなるのである。

                                  1993年11月22日(火)


若い頃は、母を特別尊敬していたわけではなかった。
母のような人生を送りたくない、と思ったときもあった。
わたしは父に似ているから、きっと母のようには生きないだろうと思っていた。

それなのに、このごろ母と同じことをしているなぁ、と思うことがよくある。
 
母娘とはそういうものなのか・・・
by mariko0204 | 2007-07-20 15:08 | 暮らし